拡大する共有経済と縮む職人層─不動産が迎える転換点 2025-2030【未来創造を考えるコラム第1回】

【前回までのあらすじ】
業界ヒストリー最終章では、コロナ禍を経て“量から質へ”と転換する不動産業界の構造変化を整理しました。空き家問題や高齢化、テクノロジーの波を経て、業界は「ライフデザイン業」へと進化する必要性が浮き彫りになりました。
【今回の導入】
未来創造編の初回では、実際に市場をけん引する企業事例を交えながら“所有から利用へ”を加速させるシェアリングエコノミーを読み解きます。国内フレキシブルオフィスは 3,260拠点・16.4万席、民泊届出は 48,686件(前年比117%増)、シェアハウス物件は 前年比5.4%増──拡大する共有経済の数字を起点に、WeWork Japan(コワーキング)、クロスハウス & テトテハウス(シェアハウス)といった具体事例を深掘り。不足が深刻化する職人スキルをどう補完し、次世代の不動産をどう設計するかを議論します。
3,260拠点・16万席のコワーキング時代到来──WeWorkが牽引
松川:
まずは“シェアオフィス”から。最新調査では国内フレキシブルオフィスは 3,260拠点、総席数は約16.4万席に拡大しています1。この領域を牽引しているのが WeWork Japan ですね。
松下:
はい。WeWork は東京・大阪・福岡など主要都市に30拠点超を展開し、“All Access” というプランで国内30拠点を横断利用できます2。固定費を圧縮しながら、成長フェーズに合わせて席数を柔軟に増減できる点が支持されています。
松川:
スタートアップだけでなく大企業のプロジェクトチームも増えていますし、イベントやコミュニティ機能が“人とつながるオフィス”として新しい価値を生んでいます。
松下:
地方の遊休ビルをコワーキングに転換する動きも加速中です。空きビルの再生と地域イノベーション創出を同時に実現できるモデルとして注目しています。
拡大するシェアハウス市場──訪日客3,686万人の追い風
松川:
シェアハウス市場の中で、松下さんがいま特に注目している事業者はどこでしょう?
松下:
私が注目しているのは クロスハウス です。東京都内を中心に 7,000室以上 を運営・管理する大手で、入居者タイプや予算に合わせて
- シェアハウス個室(プライベート重視)
- 家具家電付きアパートメント(一人暮らし向け)
- セミプライベート(個室感とコストのバランス)
- ドミトリー(最安重視)
という4カテゴリを用意しているのが特徴です。
松川:
人気エリアまで20分圏内という好立地で、賃料も抑えめ。現代の入居者ニーズを的確に捉えていますね。
松川:
音楽ハウス otowa を運営する テトテハウス も注目です。防音室・グランドピアノ付きの otowa に加え、BASSE(音楽&映画を楽しむ防音+シアタールーム付き)など、テーマ型ハウスを展開3。コンセプトを明確にすることで集まる人が可視化され、コミュニティ運営がスムーズになる。その結果、リピート入居や友人紹介経由の入居比率が高いというデータも出ています。
松川:
訪日客3,686万人という追い風もあり、テーマシェアハウスは“交流コンテンツ”としてますます需要が高まりそうです。
松下:
コミュニティ運営ノウハウを横展開できる点も強みです。音楽ハウスで培った防音設計やイベント運営が、他物件の価値向上にも生きる。こうした“コンセプト・シェア”は今後の差別化ポイントになりそうです。
民泊届出22倍─空き家活用の新定番
松川:
民泊の伸びも顕著です。国交省データによれば、住宅宿泊事業の届出件数は 48,686件(2025年3月14日時点)と、制度開始直後の 2,210件から約22倍に拡大しました4。地方でも“民泊転用”の相談が一気に増えたと聞きます。
松下:
空き家を宿に転用するパターンですね。インバウンド需要が戻り、訪日客の平均滞在日数が8泊に伸びています。ホテル不足を補うだけでなく、地域体験を売りにする宿が増えたことで「単なる寝床」から「滞在型コンテンツ」へ進化しました。
松川:
ホスト側も、DIYで内装をいじりながら“好き”を仕事にするパターンが多いとか。
松下:
その通り。低コストで始められる分、個性勝負。なのでプロデュースや運営代行ビジネスも伸びています。
技能者18万人不足の2030年危機──ローカル職人シェアリング構想
松川:
一方で、空間を維持する“人手”が足りない。国交省の検討会資料によれば、建設就業者は2023年時点の約479万人から2030年には約423万人へ減少し、技能工は約18万人不足する試算が示されています[^7]。29歳以下の若年層は全体の**12%**にとどまり、高齢化による技能継承ギャップも深刻です。
松下:
だからこそ「技術を共有する仕組み」が必要です。Timeeの職人版をイメージしてもらうと早い。DIYレベルを含むライト作業は近隣の副業人材が担い、専門工事はライセンス職人を呼ぶ2層構造を作りたい。
松川:
古き良き日本のご近所づきあいを、GPSと評価システムを掛け合わせたマッチングアプリで現代版にアップデートするイメージですね。たとえば水漏れや電球交換といったライト作業は、半径1km以内のスキル保有者にプッシュ通知→チャットで即マッチング。作業後は写真付き報告とレビューが残り、実績と信頼を積み上げる——そんな“ご近所テック”の仕組みを想定しています。
松下:
そう。副業解禁の流れも追い風ですし、公務員の副業容認が進めば地域に眠るスキルが一気に市場化します。
次回予告
松川:
今回は数字で見るシェアリング最前線と、職人スキルシェアの必要性を掘り下げました。次回は、加速する災害リスクとテクノロジーの組み合わせで、未来の安全・安心をどう創るかを深掘りします!
松下:
ぜひ。防災×不動産アップデートと、レジリエンスを高めるビジネスモデルを語り合いましょう。
脚注一覧
- ザイマックス総研『フレキシブルオフィス市場調査2025』(2025年2月)
https://soken.xymax.co.jp/wp-content/uploads/2025/02/2502-flexible_office_survey_2025.pdf ↩ ↩2 - WeWork Japan
https://weworkjpn.comss ↩ - 全国賃貸住宅新聞2025年04月11日記事― 物件数前年比5.4 %増・訪日客3,686万人
https://www.zenchin.com/news/content-3887.php - テトテハウス公式サイト/物件紹介
https://tetotehouse.life/ ↩ - 国土交通省「住宅宿泊事業法の届出状況」(2025年3月14日)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/construction_situation.html ↩ ↩2 - 国土交通省 建設業政策検討会資料『建設業を巡る現状と課題』(2025年3月)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001610913.pdf ↩ ↩2