緊急駆けつけ業界ヒストリー第1回:業界草創期の胎動と私の出会い

このインタビューシリーズでは、不動産賃貸管理の現場で“24時間駆けつけサービス”や“コールセンター”がどのように誕生し、今日のように拡大・成熟してきたのか、その歩みを振り返ります。業界の草創期から成長期を最前線で経験し、現在も事業をリードしている当社代表・松下直史が、当時の生々しいエピソードや思いもよらない発想のきっかけなど、あらゆる角度から語る連載企画です。
シリーズ第1回となる本日は、そもそも「緊急駆けつけサービス」がどのように生まれたのか、ロードサービス(車・バイク)からどんな着想を得て住宅向けへ派生していったのか、そして賃貸不動産との出会いと普及のきっかけなどを、代表松下にじっくりインタビューします。
1.“駆けつけサービス”との出会い
松川
「まずは、松下さんがどういう経緯でこの業界に足を踏み入れたのか――そこから伺ってもいいでしょうか?」
松下
「ええ、私は今44歳なんですが、当時26歳のときに転職して、初めてこの“緊急駆けつけ”系のサービスを扱う会社に入ったんです。実はそこが、本格的に『住宅向け駆けつけ』を展開していく前に、バイクのロードサービスに力を入れていたんですよ。」
松川
「バイクですか! 車向けのロードサービスはよく聞きますが、バイクだとちょっと珍しいですよね。そこからどんなふうに住宅向けへ広がっていったんでしょう?」
松下
「はい。当時、車はJAFさんを筆頭にロードサービスがもうずいぶん普及していましたけど、バイクのほうはまだまだ手薄でした。だから会社としては“隙間市場”を狙って、バイクのロードサービスをメインにやっていたわけです。で、あるときにバイクの鍵を失くした方から『家の鍵も一緒に落としちゃって…そっちも開けてもらえないですか?』ってお願いを受けて、『あれ、これは住宅にも展開できるんじゃない?』と。」
松川
「それがきっかけなんですね! ある意味、現場発の“ひらめき”といいますか、“お客さんの声”から事業が広がったわけだ。」
松下
「そうなんです。自分としては“これは、バイクだけじゃなく家の鍵も対応できたら便利になるな”と。そこから、車やバイクのロードサービスで培った24時間365日のコールセンター体制を、住宅向けに応用してみようという動きが始まりました。」
2. 不動産管理会社の反応と市場の反応
松川
「実際に住宅向けを始めてみたとき、不動産管理会社さんの反応はどうだったんですか?」
松下
「これが意外に、というか想像以上にウケたんですよ! たとえば全国に店舗を持っている赤い看板の不動産チェーンさんや、緑の看板のところとか(笑)、次々と提携が決まっていきました。もう“行けば行くほど契約が取れる”という、まさにブルーオーシャン状態でしたね。」
松川
「なるほど。賃貸管理の会社さんにとっては、“夜中に急な問い合わせが来ても対応できない”というのが大きな痛みだったんでしょうか?」
松下
「まさにそうです。彼らは昼間の契約業務で手いっぱいですし、24時間常に人を置けないですからね。そこを外部委託できるなら――“お願いしたい!”となるのも当たり前というか。一方、入居者にとっては『鍵が開かない! 水漏れした!』といったピンチで、すぐに電話できる場所があるというのが非常にありがたい。つまり不動産管理会社と入居者、両者にメリットがあったわけです。」
3. 草創期だからこその“熱狂”と“苦労”
松川
「それにしても、そんなにすぐ受け入れられるものなんですね。昔は『本当に必要なの?』みたいな声もあったんじゃないでしょうか?」
松下
「ええ、最初は『うちは部屋の紹介と家財保険のあっせんだけで精一杯』と言われるケースもありました。でも説明すると『あ、これまでなかっただけで、確かに必要だよね』と理解してくださるんです。入居後のトラブル対応って意外と盲点だったんだな、と。」
松川
「松下さんご自身、営業していく中で『これはいける!』と確信できるような瞬間はあったんですか?」
松下
「ありましたね。入社1年目で自分ひとりの売上が1億円超になったときとか(笑)。今考えると、とんでもない数字なんですけど、それだけ需要があり、競合が少なかったんです。もう“足で稼ぐ→契約増える→また次も決まる”の繰り返しで、当時はどんどん拡大していきました。」
松川
「1年目で1億円ですか…! それはすごい。“ブルーオーシャン”と言っても、そこまで即効性があるっていうのは、やっぱり時代の勢いを感じますね。でも、体制面は大丈夫だったんでしょうか? 24時間コールセンターともなるとオペレーターや技術スタッフの確保が大変そうですが。」
松下
「そこですよね。正直、“プラチナブラック企業”なんて自虐で呼んでいたくらいに(笑)、めちゃくちゃ大変でした。オペレーターが急に体調崩して誰もいないなんてときは、日中営業していた私が夜勤に入るとか普通でした。2~3日帰れない同僚もいましたし、コールセンターの床で寝袋使って仮眠してる人もいましたよ。」
松川
「すごいですね、まさに『一心不乱に走り回っていた』感じなんでしょうか。そういう時代を経て、現在のように大きな業界になったわけですね。」
松下
「ええ。無我夢中でやってるうちに、みるみる契約戸数が増えていった――そんな記憶があります。もちろん、今思えばコンプライアンス的にどうなんだという部分もありますが(笑)、でもあの時期を乗り越えたからこそ、今の駆けつけサービスが普及したとも思いますね。」
4. 保険との違いが生む“安心感”
松川
「そういえば松下さん、今回の収録でもう一つ印象的だったのが、『保険に入るとお金は戻ってくるけど、実際に鍵を開けたり修理に来てくれたりはしない』とおっしゃっていましたよね。そこにこのサービスの価値がある、と。」
松下
「まさにそうです。保険はお金で損害を補償するわけですが、緊急時はまず“誰に連絡して、どの業者さんを手配すればいいのか”というところで止まってしまう。結局、自分で探して、支払って、後で請求という形ですよね。だけど駆けつけサービスは“電話一本ですぐ手配できて、しかも24時間対応”というところが一番支持された理由だと思います。」
松川
「しかも、保険の場合はそもそも使う・使わないにかかわらず、入居者は義務として加入するケースが多い。それでも結局は『どうやって修理するの?』と迷う人が多かったんですね。サービスとして“人が動く”というのがやっぱり頼もしい。」
松下
「そうですね。とくに夜中に鍵を失くしたとか、水漏れで床が濡れているとか、早急に何とかしないと困るケースは本当に多いですから。そういう“手間ごと”を一気に解決してくれるなら、むしろ保険より便利だと言われることもありました。」
5. 当時の数字とこれからの伏線
松川
「ここでちょっと数字の話をしましょう。当時、夜間や休日にコールセンターを導入していた不動産管理会社って、どのくらいあったんですか?」
松下
「体感的には**1〜3%**ぐらいですね、もう皆無に等しい。むしろ、大手より中小のほうが『人手が少なくて困っている』というリアルな悩みがあるので、こちらの話に飛びついてきた印象です。」
松川
「なるほど。今の感覚だと、そんなに少なかったのかと驚きです。いかにこのニーズが“放置状態”だったか、よくわかりますね。」
松下
「ええ。だから市場は広大で、営業に行けば『ちょうど困ってた!』みたいなケースばかり。それもあって、私を含め、セールス部隊は走り回ってどんどん契約とってきました。まさに成長期を肌で感じていた時代です。」
松川
「いやあ、すごい迫力ですね。当時の苦労話や勢いのあるエピソードは、やっぱり聞いていてワクワクします。ということで第1回はこのあたりで締めたいと思いますが、次回はより詳しく“ロードサービスとの本質的な違い”や“不動産賃貸管理業界でどのように広がっていったのか”を伺っていきます。松下さん、本日はありがとうございました!」
松下
「こちらこそ、楽しかったです。ありがとうございました。次回も楽しみにしています。」
次回予告:第2回「ロードサービスとの本質的な違いと、賃貸不動産に広がる転換点」
- 車・バイクのロードサービス文化との対比
- 大手不動産チェーンへの営業方法と、爆発的普及をもたらした契約のカタチ
次回もどうぞお楽しみに!